犬の膵臓病や糖尿病ってどんな病気?原因や症状、治療法について詳しく解説

犬の膵臓病や糖尿病ってどんな病気?原因や症状、治療法について詳しく解説

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はじめに

犬の膵臓病は、急性膵炎や慢性膵炎など、食事や生活習慣、犬種特性が関係して発症する病気です。
よく耳にする「糖尿病」なども膵臓病の一種です。

犬の膵臓病は、高脂肪の食事や肥満、ストレスなどが要因となりやすく、早期に適切な対応を行うことが健康を守る鍵となります。

今回は、愛犬の健康を支えるために知っておきたい、膵臓病の原因や症状、注意点について詳しくご紹介します。

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犬の膵臓病とは?役割と注意すべき病気

膵臓は、食事中の「脂肪」を分解するための消化酵素を分泌する臓器です。
胃の後ろから十二指腸に沿って存在し、消化酵素だけでなく、血糖値を調整するインスリンやグルカゴンなどのホルモンも分泌しています。
つまり、膵臓は「外分泌」と「内分泌」の両方の役割を担う、犬の健康にとって欠かせない重要な臓器ということですね。

この膵臓に何かしらの疾患が発生すると「膵臓病」と呼ばれる病気になります。
膵臓病とはあくまでも総称で、具体的には以下のような病気が含まれます。

膵炎

膵臓が分泌する消化酵素が、何かしらのきっかけにより膵臓自体を傷つけてしまう病気。
急性と慢性の2種類があります。

膵外分泌不全

膵臓から分泌される消化酵素が減少し、脂肪が消化しにくくなる病気。

膵腺癌

膵臓の分泌腺に発生する悪性腫瘍で、膵臓癌の中で最も一般的な疾患

インスリノーマ

膵臓のインスリンを分泌する「β細胞」に発生する悪性腫瘍。
インスリンが大量に分泌されてしまい、低血糖を起こしてしまうのが特徴。

糖尿病

膵臓のインスリンを分泌する「β細胞」が破壊されたり(I型・分泌障害)、インスリンの体内での作用が弱まったり(II型・作用低下)することで、血糖値が高くなる病気。

中でも「膵炎」と「糖尿病」は、日頃の診察においても非常によく遭遇する疾患であり、毎日の食生活が治療の一環として重要である病気です。
今回は、その二つにスポットを当てて解説します。

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犬の膵炎の原因や好発犬種は?

犬の膵炎の原因は多岐にわたり、現時点でははっきりとした原因は分かっていません。
ただし、膵臓は脂肪を消化する臓器であるため、脂肪分が高い食べ物を摂取した際に発症しやすいとされています。

特に、以下のケースではリスクが高まります

膵炎のリスクが高まるケース

  • ヒトの食べ物(揚げ物、チョコレートなど)の誤食
  • 生肉の大量摂取

好発犬種には以下の犬種が挙げられます。

また、基礎疾患を持っている場合、さらに膵炎のリスクが高まります。
以下の疾患を持っている場合は特に注意が必要です。

膵炎を併発する可能性が高まる基礎疾患

  • 高脂血症
  • 甲状腺機能低下症
  • クッシング症候群
  • 糖尿病
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犬の膵炎の症状|「祈りの姿勢」しぐさに要注意

膵炎の主な症状は、強い腹痛、嘔吐、下痢、元気消失、食欲不振など、多岐にわたります。
腹痛は非常に強い場合が多く、触診時に痛みが増すことがあります。

嘔吐や下痢は繰り返し起こることがあり、これにより脱水症状を引き起こすことも少なくありません。
また、急性膵炎では突然症状が現れることが多い一方、慢性膵炎ではこれらの症状が軽度で断続的に現れる場合もあります。

特に「祈りの姿勢」と呼ばれる特徴的なしぐさは、膵炎の典型的なサインです。
この姿勢は、強い腹痛を和らげようとする行動で、前足を地面につけて頭を下げ、後ろ足とお尻を高く上げる形になります。
このしぐさをよく見かける場合、膵炎が疑われるため、速やかに動物病院を受診することが推奨されます。

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犬の膵炎の治療法とは?

犬の膵炎の治療は、基本的に対症療法が中心です。
膵炎自体を直接治す薬はありませんが、症状を緩和し、膵臓を安静に保つことを目的とした治療が行われます。
主な治療内容は以下の通りです。

膵炎の主な治療法(対症療法)

吐き気止めや下痢止めの投与

膵炎による嘔吐や下痢を抑えるために、制吐剤や整腸剤を使用します。
これにより、犬が少しでも楽に過ごせるようにします。

点滴治療

膵炎の治療において、点滴は非常に重要な役割を果たします。
静脈内点滴で脱水状態を改善し、体内の電解質バランスを整えるとともに、膵臓を休ませるために栄養補給を一時的に停止する場合もあります。
このため、多くの場合、入院治療が必要です。

低脂肪の療法食

一度膵炎を発症した犬は、再発を防ぐために、脂肪分を抑えた療法食が推奨されます。
これにより膵臓への負担を減らし、症状の再発リスクを抑えます。
療法食は長期的に継続することが極めて重要になります。

痛みの管理

膵炎による腹痛が強い場合は、鎮痛剤を使用することもあります。
痛みを緩和することでストレスを軽減し、回復を促進します。

基礎疾患の管理

「犬の膵炎の原因」の項で挙げた膵炎を引き起こす可能性がある基礎疾患がある場合、それらを適切に管理することが再発防止に繋がります。
また、膵炎の重症度によっては治療期間が長引くことがあり、早期の診断と治療が犬の予後を左右します。
症状が改善した後も、定期的な健康チェックを行い、再発防止に努めることが重要です。

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愛犬が膵炎になった場合は、飼い主さんの食事管理が重要

「犬の膵炎の原因」でお話しした通り、膵炎は脂肪分が多い食事が関与していることが知られています。
もし膵炎を発症してしまった場合、治療後は脂肪分の低いドッグフードやおやつを使用することが必要不可欠。
膵炎は、一度治ったからといって脂肪分が高い食事を与えてしまうと、再発しやすい病気と考えられているため、注意しましょう。

低脂肪の療法食と総合栄養食の比較例

低脂肪の療法食 総合栄養食
タンパク質 26.1 % 24.3 %
脂質 8.9 % 15.5 %
炭水化物 56.7 % 52.6 %
粗繊維 2.3 % 1.4 %

低脂肪の療法食は、脂肪分を抑えつつも、必要な栄養をバランスよく含むよう設計されています。
一方、総合栄養食は一般的な健康な犬向けのフードであり、膵炎の再発予防には向いていない場合多いでしょう。
膵炎を一度患ってしまった場合には、愛犬の健康状態に応じて獣医師と相談の上、適切な選択してください。

愛犬がご飯を食べないときは

ドライフードのみで食べてくれる場合は、低脂肪の療法食が最適です。
もしドライフードのみでは食べてくれない場合、低脂肪のウェットフードをトッピングしたり、少量のササミを加えると、食いつきが良くなることがありますので、試してみてくださいね。

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犬の糖尿病の原因と糖尿病の種類

犬の糖尿病は、大きく以下の2つの種類に分けられます。

Ⅰ型糖尿病(インスリン依存型糖尿病)

膵臓のβ細胞が破壊され、インスリンがほとんどまたは全く分泌されなくなります。
主に膵炎や免疫の異常などにより、膵臓がダメージを受けることが原因とされています。
Ⅰ型糖尿病の場合、インスリン注射が必須となります。

Ⅱ型糖尿病(インスリン非依存型糖尿病)

インスリンは体内で作られますが、体がうまく使えない状態(インスリンが効きにくくなる)になります。
ステロイドホルモンや、発情期に多く分泌される「黄体ホルモン」などが原因の一つとして考えられ、インスリンの効果が弱くなり、血糖値のコントロールが難しくなります。
治療は食事療法や体重管理が中心ですが、進行するとインスリン注射が必要となることがあります。

なお、犬の糖尿病の場合、主にⅠ型糖尿病(インスリン依存型糖尿病)であることが多いとされています。

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犬の糖尿病の症状

糖尿病の症状は進行具合によって異なりますが、以下のような段階的な変化が見られます。

初期症状

多飲多尿

水を飲む量が増え、尿の量や頻度が多くなります。

体重減少

食欲はあるにもかかわらず、体重が減少していきます。
これは、細胞がエネルギー源として糖を利用できず、代わりに脂肪や筋肉が分解されるためです。

食欲増加

血糖値が高いのにエネルギーが不足しているため、常にお腹が空いているような状態になります。

進行期の症状

ケトアシドーシス

糖尿病が進行すると、脂肪が過剰に分解されケトン体が産生されます。
これにより、以下のような症状が現れます

[ケトアシドーシスの症状]
・嘔吐や下痢
・食欲不振
・元気消失(無気力、動きたがらない)
・呼吸が速くなる(深く荒い呼吸)

また、糖尿病になると、以下のような慢性的な合併症を併発する恐れがあります。

慢性的な合併症

白内障

高血糖の影響で目の水晶体に異常が起こり、視力が低下します。

感染症

尿路感染症や皮膚感染症が起こりやすくなります。

神経障害

末梢神経が影響を受け、歩き方がおかしくなることがあります。

糖尿病が疑われる場合の対応

糖尿病の早期発見と治療は、愛犬の健康と生活の質を守るために非常に重要です。
以下のような症状が見られる場合は、速やかに獣医師に相談しましょう。

糖尿病が疑われる症状

  • 水を大量に飲み、尿量が明らかに増えた
  • 体重が急激に減少している
  • 食欲が変化している(増加または減少)
  • 嘔吐や下痢が続き、元気がない

糖尿病が確定してしまった場合、インスリン注射や食事療法が必要です。
愛犬が快適に生活できるよう、早期発見と定期的な検診を心がけましょう。

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犬の糖尿病の治療法とは?

犬の糖尿病の治療は、インスリン注射による補充が基本です。
もしケトアシドーシスの状態にある場合、インスリン治療に加えて、入院して点滴などの治療が必要になることがあります。

分類による治療法

Ⅰ型糖尿病

基本的に生涯インスリン治療が必要で、食事も血糖値に配慮したものにする必要があります。

Ⅱ型糖尿病

インスリン治療に加え、基礎疾患(クッシング症候群や黄体嚢腫など)の特定と治療も重要です。

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愛犬が糖尿病になってしまった場合の食事管理

もし愛犬が糖尿病と診断された場合、糖尿病用の療法食に切り替えることが重要です。
糖尿病用の療法食は、食後の血糖値が上がりやすい脂質や炭水化物を抑え、繊維分を多く配合しているため、血糖値の上昇を緩やかにしてくれます。

糖尿病用療法食と総合栄養食の比較例

糖尿病用の療法食 総合栄養食
タンパク質 22.3 % 24.3 %
脂質 12.5 % 15.5 %
炭水化物 46.1 % 52.6 %
粗繊維 13.6 % 1.4 %

また、ドライフードだけでは食べてくれない場合、糖尿病用のウェットフードをトッピングしたり、少量の高繊維の野菜を加えることで食いつきが良くなることがあります。

ただし、同じ野菜でも、かぼちゃやさつまいもなどは炭水化物が多く、避けた方が良い食材です。
また、乳製品が含まれる市販のおやつ(ボーロやチーズなど)も与えるべきではありません。
お肉に関しても、脂肪の多い牛肉や豚肉は与えず、低脂肪のササミなどを少量与える程度にとどめると良いでしょう。

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愛犬の健康を考え、日々の食事を意識しよう!

犬の膵臓病は、日頃の食生活がきっかけで発症することがあります。
可愛い愛犬に好きなものを与えたくなる気持ちはよく分かりますが、健康のためには適切な食生活を守ることが大切です。
愛犬がいつまでも長生きしてくれるように、身体に優しいフードやおやつを選んであげてくださいね。